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ゲノムでは測れない雑種強勢の素晴らしい効果
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ゲノムでは測れない雑種強勢の素晴らしい効果

2019.02.18和牛の血統について

美津茂洋 (茂洋×那須光×金幸×第20平茂×宝勝×15気高)
鹿児島県育種値 AHCAAH

美津茂洋は、栄光と気高の血で固められた母体に、但馬系の那須光と茂洋を交配して造成された但馬系種雄牛です。
本牛は、但馬の血が濃いにも関わらず、羽子田人工授精所の係留牛の中でも一番大きい種雄牛です。
美津茂洋の地元の鹿児島県曽於市では、雌で枝重600kgを超えのBMS 12番が出て話題になりました。

美津茂洋の産子の特徴は、生れ落ちが大きく、発育が良く、健康に育つことです。
美津茂洋は、全国的に希少な系統の血液を引き継いでおり、どんな母体と交配しても近攻係数が低くなり、雑種強勢が生まれやすいです。

雑種強勢とは、血縁関係の遠い、異なる系統の牛同士を交配することによって、その子牛が強く生まれて、強く育つことです。生まれてくる子牛(F1)は、親よりも大きくなり、生命力が増します。そして強く育っていき、食い止まりがしない素牛になります。

どうして美津茂洋は雑種強勢が生まれやすいのか、美津茂洋の血統を分析してみます。

1代祖の茂洋は、但馬牛の茂金系の血を引く宮城県の県有種雄牛です。茂洋は、仙台牛のブランドを確立させた、融点が低く甘みのある脂質、ずば抜けて高い上物率が特徴です。
茂金系は全国的に希少な系統です。宮城県は茂金波の息子牛である茂重波を兵庫県から導入して、独自に改良を進めてきました。

茂重波は、資質に優れ、肢蹄と乳微も良かったですが、体上線が緩いという欠点がありました。しかしながら、肉質は傑出しており、上物率は高く、肉の色沢や脂肪の質が素晴らしかったです。

美津茂洋は、茂重波と体型の体上線が似ているため、茂重波の遺伝を強く受け継いでいると考えています。そのためか、美津茂洋の産子は、上物率が高く、脂肪の質も優れています。

2代祖の那須光は、但馬牛らしい資質に優れている美津福の息子牛で、母牛は「もとじろう」です。那須光の血統は、美津福×紋次郎×糸光となり、安福久の半兄弟です。

美津福の産子は、肉質が極めて良く、脂質も優れていました。美津福の血統には、菊美土井の血が多く含まれています。菊美土井は但馬牛の中でも特に資質が良く、肉質と脂質が優れていたと言われています。

また、美津福と紋次郎の血が入った母体は、産子に但馬牛らしい肉質を子孫に強く遺伝させると言われています。美津茂洋の成績は、雌のほうが優れているのですが、これは、那須光が「もとじろう」、美津福、紋次郎の血が濃いからだと推測します。

那須光は事業団の検定に落ちてしまったので、全国的に使われることはありませんでした。美津茂洋が全国の母体と雑種強勢が生まれやすい要因の一つは、2代祖に幻の名牛である那須光が入っているからです。

また美津茂洋は、茂金系と田尻系という但馬牛同士の異系統交配で造成されていることが特徴です。
同じような交配で造成された種雄牛は、沖縄の茂重安福(安福165の9×茂重波×安谷土井)や勝洋(茂洋×安平照×茂勝)茂福久(茂洋×安福久×勝忠平)がいます。

茂金系と田尻系の掛け合わせは非常に相性が良く、産子は資質に優れ、但馬牛らしい肉質と脂質が期待できます。
美津茂洋は、茂金系と田尻系の血を両方保有しており、但馬牛らしい肉質や脂質の良さ、発育の良さを、強い遺伝力で産子に伝えます。

3代祖の金幸は、鹿児島県有の栄光系の種雄牛です。
金幸は、第5栄光→金水9→金徳→金幸と、一本の流れで栄光系の雄系として存続している、貴重な血統の種雄牛です。

栄光系は、体型が良く屈強で、近親交配にも強く、骨緊り、資質の良さが特徴です。また栄光系の血が母体に入ると、体型を整えさせることができ、繁殖力も向上するといわれています。

金幸は、全国的にも希少な栄光系です。鹿児島から導入しない限り、栄光系の血が入っている母体は全国的に少ないです。その為に、金幸と全国の繁殖母体は、雑種強勢になりやすい関係にあります。金幸の血が入った肥育素牛は、雑種強勢の恩恵を受けて、食い止まりしにくく、脂肪縊死にもなりにくいです。

4代祖の第20平茂は、気高の親子交配で造成された気高系の種雄牛です。
気高の祖父母4頭のうち1頭は但馬牛であるため、気高の4分の1は但馬牛の血です。第20平茂は、気高を親子交配することで、気高系の優れた体型と、但馬の肉質の良さを引き継いだ質量兼備の種雄牛です。

5代祖の宝勝の父牛である第8気高は、第5栄光の孫同士の掛け合わせで造成されており、栄光の血を濃く受け継いでいます。

6代祖の第15気高は、父は気高で母の父は第五栄光です。
第15気高の産子は、均称が良く、体積があり、中躯に伸び、体上線が優れていました。

こうして美津茂洋の血統を読み解いていくと、美津茂洋は全国的に希少な系統の血で構成されていることがわかります。

美津茂洋の母系は、栄光系と気高系を繰り返し何度も交配する系統交配で造成されました。
その結果、栄光系や気高系の特徴である、発育の良さ、体型、大きさが美津茂洋に強く遺伝しました。

美津茂洋はきっちりとした気高系の土台がありながら、平茂勝の血が入っていないという特徴があります。
そのために、百合茂や勝忠平、善亀忠といった平茂勝系の種雄牛とも相性が良いです。

鹿児島県は、県と民間ともに気高系を主体とした改良を勧めており、鹿児島県の牛は発育と体型が良く枝重が取れる種雄牛が多いです。
美津茂洋は、鹿児島県の枝重ランキングでは23位、並み居る気高系種雄牛の中で但馬系ながら上位に評価されています。

美津茂洋は、どんな母体とも雑種強勢が起こりやすく、また脂質や肉質に優れた遺伝子を保有しています。
また美津茂洋は、雌の成績が優れており、美津福や「もとじろう」の血も引き継いでいるので、母体に置くこともお勧めします。

是非とも美津茂洋の優れた遺伝子を利用して、健康で発育の良く、資質に優れた、市場価値の高い素牛を生産して下さい。